メールアドレスを変えるたびに微かに傷付く
先日スマートフォンを買い替えた。使っていたものを解約し新規で契約という形。電話番号とメールアドレスも変更となった。アドレス変更となると頭を悩ますのが"新しいアドレスを誰に伝え、誰に伝えないか"という問題だ。
というかそれ以前に、そもそも今もまだ「◯◯です。メールアドレス変更しました。 」みたいなメールみんなやってるのか?もしかしてこれ送るのめちゃくちゃ恥ずかしい行為になってたりしない?少し不安になってきた。私はLINEをやっていないため他人と連絡を取るにはメールか電話しか手段がない。だから必要なことだとは思うのだが、どうなんだろうか。
なんだかんだ私はアドレスが変わるとき毎回その時点で連絡先を登録しているすべての人にこういったメールを送っている。誰に送って誰に送らないか考えるのが面倒だからである。しかし、当然のことながら何年もやり取りをとっていない相手も存在する。というか私の場合ほとんどがそうだ。したがって何割かは彼からメールが返ってくるのだ。
Mail Delivery Subsystem
件名:Returned mail
これは心にチクッとくる。
私だってべつに一人ひとり、この人とまたメールを交わす日が来るだろうと思ってアドレス変更を伝えたかったわけではない。事務的に、機械的に登録していたアドレス全員に送っているだけだ。ただそれでも、送信から間髪容れずにメール受信音が鳴る。確認する。Mail Delivery Subsystem。これには微かに傷付いてしまうのが人間というものだろう。特に私の場合、登録している人数が極端に少ない。一桁である。それがメールアドレスを変更するたびに少しずつ着実に減っていく。少しずつ着実にダメージを受ける。さながらどく状態のポケモンのように。
余談だが、登録件数が増えることを想定していないのは私が無職だからである。それはもうずぶずぶの無職だ。高校2年次から通信制の学校に転校したので生活スタイルだけでいえば高2からすでに無職であった。なんとなく年齢の明記は控えるが、まぁ4〜6年間無職の生活スタイルを送っている。アルバイトは年に何回か短期のをするくらい。LINEはやってない。友達も恋人もいないのでメールや電話もない。極端に人との関わりを、コミュニケーションを、社会を拒んでの生活。それを4〜6年。そんな私ももうすぐ社会人になる。本当に働きたくない。嫌だ。人と関わりたくない。ひとりがいい。いつまでもずぶずぶの無職でいたい。
あ、ちなみにちなみに今回私はMail Delivery Subsystemからだったが送信元のアドレスによってはMAILER-DAEMONという宛先から返ってくる。前者は機械的な冷たさを、後者は嘲笑しているような敵意を感じる。というかDAEMONって思いっきり悪魔じゃん。こわっ。
Mail Delivery Subsystemからのメールには微かに傷付けられる。だが、逆にこう考えてみた。
彼も彼で苦悩しているのではないだろうか。
彼、つまりMail Delivery Subsystem。
存在しないアドレス宛のメールを瞬間にしてただ機械的に送信元に返すだけ。(まぁ機械なんだけど)
血も涙もない冷徹な仕事人。人々の目にはそう映る。(まぁ人間じゃないんだけど)
ただ彼だって人知れずに心を痛めているのかもしれない。(まぁ心もクソもないんだけど)
"おひさしぶり☆ ◯◯だよ!元気にしてた?アドレス変わったから登録よろしくね(^人^)今度飲みに行こうね〜!"
こういった類のメールをいくつもいくつも読む。そして速攻で本人に送り返す。
「俺はこんな仕事がしたかったんだっけ……」
"ご無沙汰です。△△です。メールアドレス変更しました。宜しくお願い致します。"
休息の時間はない。次から次へと行き場のないメールが彼の元に集う。
「人々を笑顔にする仕事がしたい……」
"メールアドレス変更しました。よろしく。"
「こいつ名乗るの忘れてる……」
"◇◇です。ついにスマホデビューしました! アドレスと電話番号です!
アドレス:〜〜〜〜〜〜@〜〜
電話番号:××× ×××× ×××× "
「…………」
"※※です。アドレス変更しました。去年のお正月以来だけど、元気かな?++ちゃんは今年で中学3年生だね。受験頑張ってね!"
「…………ウンギェェエエエオオオオアアアアアアアアアッッッッ!!!!!キェァァァェェェェァァァアアアアッッッッ!!!!!」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。」
「………………………ウッッッウッッッッッ……」
「………………………………………………Returned………mail…………」
「Returned mail: see transcript for details」
「Returned mail: see transcript for details」
こうして彼は日本語を棄てた。これで少なくとも日本語のメールは記号として認識できる。届かないメールなんて理解したくない。送信者のことなんて、受信者との関係なんて理解したくない。自分が傷付ける相手のことなんて……。
以上です。もうおしまいでいいです。
これなんの記事だっけ。